福島地方裁判所白河支部 昭和27年(ワ)25号 判決
原告 菊地重正
被告 佐藤嘉明 外一名
一、主 文
1.福島県西白河郡西郷村大字熊倉字道場久保六番の一、六番の五、七番地上山林立木ならびに同地上に伐採されてある松木が原告の所有であることを確認する。
2.被告佐藤は原告に対して金三六、五〇〇円を支払わなければならない。
3.訴訟費用はこれを四分しその三を被告佐藤の負担とし、その一を被告仁平の負担とする。
二、事 実
原告は主文第一、二項と同じ判決と訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として次のように述べた。
「原告は昭和二四年二月二日主文第一項記載地番の土地をその上の立木も含めて所有者篠崎宗義から買受け、同月一四日その所有権取得登記をした。
ところが、被告佐藤は右地上の立木は自分の所有であるとして昭和二五年六月ごろ前記六番の一地上杉立木約四〇本を他に売却処分し、買受人においてこれを伐採搬出したため、原告はその所有権を失い、その価格相当の一三、〇〇〇円の損害を受け、ついで昭和二六年一二月ごろ被告佐藤は前同様七番地上の杉立木約三〇本、松立木八本を他に売却伐採搬出させ、原告にその価格相当の一三、五〇〇円の損害を与え、さらに、同二七年四月には被告佐藤は同地上の立木全部を被告仁平に売り、被告仁平はそのうち約三〇本を伐採処分したので、原告はその価格相当の一〇、〇〇〇円の損害を受けた。それで原告は被告等に対し右地上の立木は原告の所有であると告げ、その伐採処分を止めさせようとしたところ、被告等は原告の所有権を否認する始末であつた。
右のような事情であるから、原告は被告等に対し本件山林の原告所有であることの確認を、被告佐藤に対しては前記不法行為により原告の受けた損害合計三六、五〇〇円の賠償支払を求めて本訴に及んだ。
なお、本件土地ならびに地上立木がもと被告佐藤の所有であつたことは認めるが、同人は昭和二〇年七月一四日篠崎宗義の先代兼吉に地上立木を含め右土地全部を売り渡したのであり、地上立木を留保して土地のみを売つたのでもないし、買戻約款附きで売つたのでもない。仮に買戻の特約が被告佐藤と篠崎との間になされていたとしても、その事実は登記簿上記載されていないので、第三者である原告に対抗できないわけである。また被告佐藤が篠崎に右土地地盤のみを売渡し、地上立木所有権を留保したとしても、被告等はその立木所有権につき、明認方法その他の公示方法を施していないのであるから、右立木を土地と一体のものとして篠崎から買受け、その土地所有権につき登記を経た原告に対抗できないものである。」
被告等は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として次のように述べた。
「原告主張の土地立木はもと被告佐藤の所有であつたが、同被告は昭和二〇年七月一四日右地上立木の所有権はこれを留保し、その地盤である土地のみを篠崎兼吉に買戻の約款附で売渡し、篠崎兼吉の相続人篠崎宗義が原告主張の日これを原告に売り、登記を経たのであるが、右の宗義原告間の売買ももとより本件土地のみに限られ、その地上立木は含んでいないのであり、従つて、本件立木は依然被告佐藤の所有で原告の所有ではない。だから、被告佐藤が、原告主張の本件地上立木を売却処分したこと、その価格が原告主張通りであることは認めるが、これについて原告は所有権をもつていないのだから、被告等に不法行為責任はない。また被告仁平も右のように、被告佐藤からその所有に属する七番地上の立木を買受け伐採したにすぎず、本件立木は原告の所有に属するとの原告主張はうけいれられない。もつとも被告等が、本件立木所有権について明認方法等公示手段を施していないことは認める。」<立証省略>
三、理 由
原告主張の土地とその地上立木がもと被告佐藤の所有であつたことは当事者間に争ないが、被告等は昭和二〇年七月一四日右地上立木の所有権を留保し、その地盤である土地のみを、篠崎兼吉に売つたものであると主張し、原告は、右売買は立木を含む土地としてなされたものであると主張するので、この点についてまず判断する。証人大森四郎の証言によると、昭和二〇年ごろ東京から疎開して白河市に来ていた篠崎兼吉は、同人に座敷を貸していた大森四郎の世話で本件土地山林を買うべく被告佐藤と交渉したが、立木を含めた価格なら五〇、〇〇〇円との被告佐藤の申出に対し、それだけの金策がつかなかつた関係上結局立木は買わず、被告佐藤に留保し、その地盤である土地三筆のみを代金二〇、〇〇〇円で買受けることになつた事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。すなわち、被告佐藤は本件立木の所有権を留保し、その地盤のみを篠崎に売り渡したわけである。
次に、原告は篠崎兼吉の相続人宗義から昭和二四年二月二日本件立木を含む前記土地所有権を売買によつて取得したと主張し、被告等は右売買は前同様立木を含まぬものであると主張するが、証人篠崎宗義の証言によると、同人は父である兼吉が前記のように本件土地を買受けた時は応召中で、その売買のことは知らず、昭和二〇年九月復員して兼吉と一しよに暮すようになつた後もその話は聞かず、昭和二一年一月兼吉死亡後その書類を整理した際関係書類を発見してはじめて兼吉が右土地を買受けたことを知つたのであるが、その地上立木を除外して父兼吉が買受けたものとは気附かず、原告が同人方をたずねて右土地を売つてくれるようにと求めるままに、その地上立木をも含め代金九〇、〇〇〇円で売り渡すことを承諾したものと認められる。成立に争のない甲第二号証(右売買についての権利証)には、右土地につき毛上なしとして売渡されているように記載されているが、同時にそれにはその売買代金一三、五〇〇円と記載されていて、前認定の九〇、〇〇〇円より著しく安いものであること、証人篠崎宗義の証言によれば、同人は委任状などを買主である原告などに渡し、自ら直接には右甲第二号証の作成にあずからなかつたと認められるので、これらの事実から見ると、右甲第二号証中の毛上なしの記載は原告において登録税の低減をはかるため売買代金を低く記載することとつじつまをあわせるため、事実に反する記載をしたものと推認されるので、右甲第二号証中の記載は前認定の妨げとならないし、証人大森四郎の証言もいまだ右売買が立木を除外してなされた事実を証するに足りずその他前認定を左右するに足りる証拠はない。
すなわち、本件における事実関係は次のようになる。被告佐藤はその所有していた本件土地をその地上立木所有権を留保し篠崎兼吉に売つたのであるが、兼吉の相続人宗義は右土地を立木を含む一体として原告に売り渡したのであり、さらに当事者間に争のないとおり、原告は右の土地所有権取得につき昭和二四年二月一四日登記を経たのに対し、被告佐藤はその立木所有権について公示方法を施していないということになる。そこで右のような事実関係のもとで、原告は本件立木の所有権を取得し、これを被告等に対抗主張できるかどうかについて考えて見る。
これについては、篠崎兼吉は被告佐藤から本件立木を買受けなかつたのであるから、その相続人の宗義もその所有権を取得せず、従つて原告が同人から本件立木を含めたものとして土地を買い受ける契約をしても、それによつて原告は前主宗義の有せぬ立木所有権を取得できるはずはないともいえそうである。然し立木法の適用を受けぬ立木所有権は特殊なものであつて、通常はその地盤である土地の一部として土地所有権の内容に含まれ、土地所有権と別に立木所有権が独立してあるのではない。ただ特に取引当事者の意思により、特に土地とはなれて独立の取引の対象とされる場合等特殊な場合にのみ土地所有権から分離独立した立木所有権が認められるのであるが、こうした立木所有権の特殊性から見て、その立木所有権の移転等について第三者に対抗主張するためには対抗要件としての公示方法を要するのはもちろん、当事者の意思等による立木所有権の土地所有権からの分離独立もまた不動産物権変動の一として、その事実を当事者以外の第三者に対抗主張するためには公示方法を施さねばならないものと解すべきである。そうすれば、土地所有者からその地上立木を買受けた者がその立木所有権について公示方法を施さぬ限り、土地所有者から立木を含むものとして土地所有権を譲受けた者その他の第三者に対して、その立木所有権を対抗主張できないのと同様、立木所有権を留保して土地のみを他に譲渡した者も、その留保した立木所有権について公示方法を施さぬ限り、後に右の土地譲受人から特に立木を除くことなく土地所有権を取得した者その他の第三者に対抗できないものといわねばならない。この場合その者の立木所有権に関する限り権利移転はないのだから、対抗問題は生じないとするのは適当でない。立木所有権を留保する処分をした時に、立木所有権の土地所有権からの分離独立という物権変動があつたというべきである。従つてこの場合立木所有権の対抗というより立木所有権の土地所有権からの分離という権利変動の対抗の問題が生じるといつた方が適当でもあろうが、いずれにしてもそのように留保された立木所有権もこれを第三者に対抗主張するためには公示方法を要するものといわねばならない。
右に述べたところによつて本件を見れば、被告佐藤は本件立木所有権を留保したとはいえ、その立木所有権についてなんらの公示方法を施していないのに反し、原告は本件立木を含む土地を買受け、その土地所有権につき登記を経たので、その地上立木所有権についての対抗要件をも具備したこととなり、従つて被告佐藤ならびに同被告から本件立木を買受けたが、同様公示方法を施していない被告仁平に対しても原告はその立木所有権を主張できることとなるから、その被告等に対する本件確認の請求は正当である。
次に被告が原告主張通り、本件立木を売却処分し原告主張数量のものが伐採搬出されてしまつたことは当事者間に争のないところであるから、特に反証のない本件において被告佐藤は少くとも過失により原告の本件立木に対する所有権を侵害したものというべく、従つてその価格として当事者間に争のない金三六、五〇〇円を被告佐藤は原告に損害賠償として支払うべき義務があるわけである。従つてその支払を被告佐藤に対して求める原告の請求もまた正当である。
以上のように原告の本訴請求はすべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西川正世)